猫の感染症の一つである猫コロナウイルスとそれにより引き起こされる猫伝染性腹膜炎(Feline Infectious Peritonitis:FIP)についてお話しします。
猫伝染性腹膜炎(FIP)
なお、この病気は人の新型コロナウイルス感染症と異なり、人には感染しません。
症状の出方は様々ですが、典型的にはウェットタイプ(急性症状)とドライタイプ(慢性症状)があります。共通する症状としては、発熱と食欲低下がみられます。
- ウェットタイプ(急性症状)
腹膜炎・胸膜炎を起こし、胸水・腹水が貯まってきます。胸水が貯まると呼吸困難が見られます。 - ドライタイプ(慢性症状)
腹腔内の腫瘤(しこり)形成、腎臓の変形などが見られます。腫瘤が脳や脊髄にでき神経症状を示すこともあります。
また、上記の典型的な症状以外にも、眼内炎が見られる場合もあります。
FIPを発症すると猫は徐々に衰弱し、無治療だと多くは1-2ヵ月以内で亡くなります。
血液検査にて、血清蛋白濃度の上昇、貧血などが良く見られます。
猫の炎症性マーカーの上昇も見られますが、他の疾患と区別するため、以下の検査を実施します。
- 抗体検査
血液中の抗体を検出し、コロナウイルスに感染したことがあるかを判別します。
ただし、腸コロナウイルスとFIPVを区別できないため、最終的には症状と併せて診断します。 - 遺伝子検査
PCR検査により、ウイルス遺伝子を検出します。
本来腸コロナウイルスが存在しない場所(胸水や腹水など)からウイルスが検出されれば、FIPV感染の疑いが強くなります
治療
以前は発症した場合には有効な治療法がなく、ステロイド使用などによる対症療法/緩和治療がメインでした。
しかし、近年レムデシベル、モルヌピラビルなどの抗ウイルス薬使用により、完治・寛解したという症例報告も多く出ています。
(※23年9月現在、当院でも抗ウイルス薬を入荷・常備しています)
対策
猫伝染性腹膜炎を発生させないためには、腸コロナウイルスに感染しないことが最重要です。しかし、現在完全に予防できるワクチンは存在しないため、抗体陽性猫からの隔離が唯一の予防手段となります。
また以前は発症したら根治できない病気でしたが、抗ウイルス薬使用等の有効な治療法が提唱されてきています。治療開始が早いほど救命率も上昇しますので、疑うような症状がみられた際には、早めの来院・診察をお勧めいたします。
また以前は発症したら根治できない病気でしたが、抗ウイルス薬使用等の有効な治療法が提唱されてきています。治療開始が早いほど救命率も上昇しますので、疑うような症状がみられた際には、早めの来院・診察をお勧めいたします。
参考文献
イヌ・ネコ家庭動物の医学大百科 PIE BOOKS
CLINIC NOTE 213号 ~新常識!FIPの診断と治療~ EDUWARD Press